アメリカ企業は変貌するか

サステナブル経営総合研究所代表 多田博之

去る 8 月 19 日に、アメリカのビジネスラウンドテーブル(以下 BRT)で、大きな指針が発表になりました。日本のマスコミでは殆ど報道されることがありませんでしたが、私はこれは、アメリカ企業にとって、歴史上のターニングポイントになる程の極めて重要な声明だったと思います。

BRT とは、1972 年設立のアメリカで最大規模の財界ロビー団体で、今年 9 月時点で、 192 社の CEO がこれに加盟しています。この組織は、1978 年以降、コーポレートガバナンス原則を定期的に公表してきましたが、ここ 20 年あまりは、1997 年以降「株主第一主義」原則を表明し、利潤を最大化し、少しでも株主に還元することこそが、企業の存在意義であるとの方針を取り続けてきました。
それが過日、「時代に合わせて、長期的視点に立った方針に変更する」として、企業のPurpose(存在意義)についての新たな方針を発表したのです。それは、従来の株主至上主義と別離し、ステークホルダー資本主義に大きく転換すること、すなわち、顧客、社員、サプライヤー、地域社会、株主、これら5つのステークホルダー全てを重視する指針を打ち出したのです。
この声明には、181 社の CEO がサインをしており、アップル、アマゾン、アメリカン航空、ジョンソンエンドジョンソン、JP モルガン、GE、バンクオブアメリカ等、錚々たる顔ぶれの企業が名前を連ねています。
新たな方針では、今後は利益を生むことと共に、「企業の社会的責任」を果たすことにも注力すべきであることが明記されています。

アメリカでは近年貧富の格差がますます広がっており、企業への批判をかわすためだという声や、マルチステークホルダー間の利害調整が図れるかを危ぶむ声も上がっていますが、私はこの新たな指針を素直に喜び、アメリカ企業が「持続可能な社会」へのトランスフォーメーションに本格的に舵を切ったと思いたいのです。今後のアメリカ企業の変貌に期待するとともに、さて日本の企業はこれからどうなるのかと考えもします。

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